
こんにちは、エンジニアデータバンクです。
「SESって、結局意味ないのではないか」――3年、5年と現場を回るうちに、ふとそう考えてしまう瞬間はないでしょうか。
未経験で入ったころは、とにかく現場に出られることがうれしかった。でも気づけば同じような開発工程を繰り返していて、同期は自社開発企業に移り、SNSでは「SESはやめとけ」という言葉が流れてくる。この記事は、そういうすでにSESで経験を積んできた方に向けて書いています。
インターネット上には「SESはやめとけ」という声と「企業選びの問題だ」という声の両方がありますが、どちらも「あなたの場合はどうか」には答えてくれません。本記事では、「意味ない」と言われる理由を公正取引委員会の実態調査で正面から確認したうえで、生成AIの普及によって前提が1つ変わったこと、そして状況別に残る/動くを判断するための表をご用意しました。
結論から先にお伝えします。SESに意味があるかどうかは、契約形態では決まりません。決めるのは「今いる現場で、AIに代替されにくい経験を積めているかどうか」です。
それでは解説していきます。
まず、「意味がない気がする」という感覚を、いったんそのまま受け止めたいと思います。
その感覚は、気のせいではありません。ただし原因は、あなたの努力不足でも配属の不運でもなく、業界の取引構造にあります。
公正取引委員会が2022年に公表した「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書」は、18年ぶりにこの業界の実態を調べたものです。4,739社から回答を得たこの調査を見ると、これまで感覚的に語られてきたことが数字で確認できます。
SESで働く方から最もよく伺うのが、「配属先が運任せ」という悩みです。
現場では「プロジェクトガチャ」という言葉が使われるくらい、どの案件に入るかでその後のキャリアが変わってしまう。それなのに、本人の希望が通ることは多くありません。
これは営業担当の努力の問題というより、自社が取引構造のどこに位置しているかで決まる部分が大きいです。
同調査によると、ソフトウェア業の事業者の取引上の位置付けは、元請が40.4%、中間下請が38.2%、最終下請が21.3%(有効回答4,589社)。6割近くが、誰かから仕事を受ける側にいます。
さらに、自分と発注元の間に実質的な役割を果たしていない事業者が入っている――いわゆる「中抜き」の存在を感じたことがあると答えた事業者は全体で25.9%。最終下請に限ると33.5%にのぼります。
同報告書に寄せられた自由記述には、こんな声もありました。
「エンジニアの準委任契約(SES)では最大5社が中間に入るケースがあり、間に入っている企業は何もしない。」
出典: 公正取引委員会「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書」(2022年6月)
案件を選べないのは、あなたの交渉力の問題ではありません。そもそも選べる位置に自社がいない、という場合があるということです。
ここが、この記事でいちばん重要な論点になります。
「SESだとスキルが伸びない」と言われるとき、実際に起きているのは担当工程の偏りです。これも同じ調査に、はっきりとした数字があります。
下請事業者が担当することの多い工程を聞いた結果は、以下のとおりです。
| 担当することが多い工程 | 割合 |
|---|---|
| 開発(プログラミング) | 56.6% |
| 設計 | 20.6% |
| 運用 | 5.9% |
| 提案・要件定義 | 5.5% |
| システムインテグレーション | 5.4% |
| テスト | 1.3% |
出典: 公正取引委員会「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書」(2022年6月) 図表2-2-6をもとに作成(有効回答2,589)
半数以上が「開発(プログラミング)」に集中し、提案・要件定義はわずか5.5%。
つまり、上流工程は構造的に上のレイヤーが握っていて、下に流れてくるのは「決まったものを作る」仕事が中心になりやすい。「頑張っているのに市場価値が上がっている実感がない」という感覚には、これだけの根拠があります。
3つ目は、現場と自社が分かれていることから来る問題です。
現場では頼りにされ、リーダーからも評価されている。それなのに、その評価を、実際に給与を決める自社の上司は見ていない。これは多くのSESエンジニアが感じているズレだと思います。
そしてこのズレは、報酬の交渉余地の乏しさとも結びついています。同調査では、取引価格について十分な協議ができていないと答えた事業者が、中間下請で34.3%、最終下請では44.6%。加えて、最終下請の44.6%が売上の9割以上を下請取引に依存し、19.2%は取引先が1社のみという状況でした。
取引先が1社しかなければ、条件を押し返すのは簡単ではありません。
なお、情報サービス業は令和3年度の下請法上の措置件数が686件と全業種で最も多い業種でもあります。個社の問題ではなく、業界全体として課題を抱えてきた領域だということです。
ちなみに、現場と自社のどちらにも属しきれない感覚――歓迎会にも社内イベントにも縁が薄く、相談相手がいないという孤独感も、この「分離」から生まれます。キャリアの判断そのものには直結しませんが、消耗の原因としては無視できない部分でしょう。
■ 補足: 2026年1月、下請法は「取適法」に変わりました
構造の話ばかりが続いたので、ひとつ動きのある話もお伝えします。
2026年1月1日から、いわゆる下請法は「取適法(中小受託取引適正化法)」という新しい名称・内容に変わりました。
主な変更点は、資本金だけでなく従業員数(300人/100人)でも適用対象を判断するようになったこと、そして「協議に応じない一方的な代金決定」が新たに禁止行為として明記されたことです。手形払い等も禁止され、事業所管省庁に指導・助言の権限が加わりました。
すぐに現場が変わるわけではありません。ただ、「自分ではどうにもならない構造」の側も少しずつ動き始めている、ということは知っておいて損はないと思います。
ここまで読むと、「やっぱりSESは不利ではないか」と感じられたかもしれません。
ただ、話はここからです。生成AIが実務に入ってきたことで、これまでの前提が変わりつつあります。
先ほどの調査で、下請が担当する工程の56.6%が開発(プログラミング)でした。
そして2026年現在、生成AIの活用が最も進んでいるのも、まさにその工程です。
ITエンジニア435名を対象にした2026年の活用実態調査では、生成AIの用途は情報の要約・調査が76.0%で最多、次いでコード生成・補完が65.2%、設計書作成が54.8%、コードレビューが49.8%、テスト支援が39.0%という結果でした。効率化を実感していると答えた人は96.7%にのぼります。
EDB DATA VIEW|ITエンジニアの生成AI活用実態(2026年6月・n=435)

AI活用が最も進んでいるのは、下請が担う「作る工程」だった。
コード生成・補完、コードレビュー、テスト支援はいずれも、先ほどの調査で下請の担当比率が高かった工程と重なる。
出典:フリーランスボード「ITエンジニア向け生成AI活用実態調査【2026年】」(2026年6月、ITエンジニア435名)をもとにEDBが作成。用途は複数回答。
これまで「SESの弱み」とされてきた下流工程偏重は、単なるキャリアの停滞ではなく、代替リスクの問題に変わった――これが、2026年に起きている変化です。
ここで、もう一つの数字を見てください。
同じ調査で、生成AIの出力をどう扱っているかを聞いた結果は、「必ず確認してから使う」が71.4%、何らかの形で確認する人が合わせて85.7%。そのまま使う人はわずか2.4%でした。
一方で、不安に感じることとして「AIに頼りすぎること」を挙げた人も39.8%います。
この数字が示しているのは、価値が「書く人」から「検証できる人」へ移りつつあるということです。
AIは一次案を高速で出してくれます。でもその案が、この顧客の業務ルールに合っているか。この既存システムの制約に引っかからないか。非機能要件を満たしているか――それを判断できるのは、その現場の文脈を持っている人だけです。
そして、顧客の業務にいちばん近い場所に常駐し続けるSESという働き方は、この「検証する役割」と相性が良い働き方でもあります。
もう一つ、企業側のデータも見ておきましょう。
IPAが2026年7月に公表した「DX動向2026」によると、AIを導入した企業が実感している効果は「業務効率化・迅速化」が91.6%と圧倒的多数。一方で、「売上・利益の向上」を挙げた企業はわずか3.9%にとどまりました。
つまりAIは今のところ、工程を速くする道具として機能しています。事業をつくる人、顧客の課題を定義する人を置き換えてはいません。
だからこそ、判断軸は「SESか、自社開発か」ではないのです。
問うべきは、「今の現場で、AIに代替されにくい経験――業務理解・検証・非機能要件の判断――を積めているか」。
これは契約形態では決まりません。同じSESでも、積めている人と積めていない人がいます。
では、自分はどちらなのか。6つのケースで整理しました。
当てはまるものを探してみてください。★が多いほど、今のSESを続ける意味が大きい状態です。
| あなたの状況 | 続ける意味 | 次に取るべき動き |
|---|---|---|
| 常駐先の業務ドメインに深く入り込み、要件の相談を受ける立場になっている | ★★★ | 今の場所で伸ばす。業務知識を言語化し、職務経歴書に「担当した業務領域」として残す |
| 上流工程の会議には入れてもらえるが、意思決定には関与できない | ★★☆ | あと1〜2年で「提案した/決めた」実績を1つ作る。作れなければ場所を変える |
| 現場では評価されているが、自社の給与テーブルに反映されない | ★★☆ | まず自社の評価制度と単価を確認する。構造的に上がらないなら動く |
| 同じ現場に3年以上いて、担当範囲が変わっていない | ★☆☆ | 現場内での役割変更を交渉する。難しければ転職・独立を具体的に検討する |
| コーディング・テストが業務の8割以上を占めている | ★☆☆ | AIの代替が最も進む領域。設計・検証側に軸足を移せる環境を早めに探す |
| 現場が短期で切り替わり続け、どの領域も浅くしか触れていない | ☆☆☆ | 積み上げが効きにくい状態。腰を据えて深められる環境への移動を優先する |
★★★=今の現場に留まる価値が大きい / ★★☆=条件つきで留まる価値がある / ★☆☆=動くことを具体的に検討したい / ☆☆☆=環境を変えることを優先したい
ここで大事なのは、★が少ない=SESが悪い、ではないということです。
★が少ない状態は「今のこの現場では積み上がりにくい」という意味であって、同じSES企業でも現場が変われば状況が変わることは普通にあります。転職の前に、まず自社の営業担当に現場変更を相談してみる価値は十分にあります。
「辛いなら転職すべき」という話にはしません。まず、残るほうが合理的なケースから見ていきます。
■ 常駐先の業務ドメインが深い場合
金融の勘定系、医療のレセプト、製造の生産管理――こうした領域は、業務を理解するだけで何年もかかります。
その業務知識は、AIが最も代替しにくい資産です。自社開発企業に移ると、その領域からは離れることになります。今の現場で「この業務のことならこの人に聞く」という位置にいるなら、それを手放すのはもったいない判断かもしれません。
■ 現場での立ち回りを上流に寄せられる余地がある場合
契約上は実装担当でも、実際には仕様の相談を受けている――という状況は珍しくありません。
そこから「要件のたたき台を作る」「非機能要件のレビューに入る」と役割を広げていけるなら、転職しなくても担当工程を上に動かせます。AI時代に価値が出るのは、まさにこの部分です。
■ 自社の評価制度に、まだ確認していない余地がある場合
資格手当、単価連動の給与制度、現場からの評価を反映する仕組み――意外と、使われていない制度が残っていることがあります。動く前に一度、確認してみてください。
一方で、判定表の★が少なく、現場を変えても状況が変わらないと分かっているなら、環境を変える判断は合理的です。
■ 自社開発企業への転職
自社プロダクトの企画から運用まで関われるため、上流工程の経験を積みやすい環境です。
AI時代の観点で言えば、「何を作るか」を決める側に回れるのが最大の利点。ただし選考では「事業をどう伸ばすか」という視点を求められるので、実装経験だけでは通りにくい傾向があります。
■ 社内SE
事業会社の情報システム部門として、社内の業務課題に向き合う働き方です。
業務理解が仕事の中心になるため、AIに代替されにくい領域に近づけます。落ち着いた環境を求める方にも向いていますが、一方で最新技術に触れる機会は減る傾向があります。
■ フリーランスとして独立する
案件を自分で選べるようになり、単価も上がりやすい選択肢です。
ただしAIの浸透を踏まえると、「実装だけを請ける」形の案件は今後、価格競争が厳しくなる可能性があります。独立するなら、業務理解や設計まで含めて任される案件を取れるかが分かれ目になるでしょう。
■ 副業から試す
いきなり辞めずに、本業を続けながら小さく外の仕事を経験する方法です。
自分の市場価値を、辞める前に確かめられるのが最大の利点。SESの契約内容によっては制限があるため就業規則の確認は必要ですが、判断材料を増やすという意味では最も安全な一手です。
環境を変えると決めたら、進め方は大きく2つに分かれます。
正社員として転職する場合は、転職エージェントを使うのが基本です。SESから自社開発・社内SEへ移る場合、職務経歴書の書き方ひとつで通過率が変わります。「常駐先で何をしたか」ではなく「どの業務領域を、どこまで理解して担当したか」を書けるかどうかが分かれ目です。
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そして繰り返しになりますが、決めきれないなら副業から試すという順番もあります。いきなり退職せずに外の仕事を1つ受けてみるだけでも、自分の経験が社外でどう評価されるかは驚くほどはっきり分かります。
もう一点、実務的な話を添えておきます。
生成AIを使った開発経験は、職務経歴書やスキルシートに書いて構いません。前述の調査でも、生成AIの活用実績をスキルシートに記載することに前向きな人は78.6%でした。
ポイントは書き方です。「AIを使った」ではなく、「AIの出力をどう検証し、どう品質を担保したか」まで書けると、この記事で述べてきた「検証できる人の価値」がそのまま伝わります。
以上、「SESは意味ないのか」という問いについて解説しました。
最後に、この記事の要点を整理します。
「SESだから」という理由だけで自分を否定する必要も、逆に「とにかく転職すべき」と焦る必要もありません。
まず判定表で今の位置を確かめて、そのうえで残るのか動くのかを、自分の言葉で決める。それができれば、この先5年のキャリアは十分に前向きなものになるはずです。
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